【完全ガイド】世界公益株式 vs 新興国高配当株式:全7商品のコスト・リターン・NISA適性を徹底比較

【完全ガイド】世界公益株式 vs 新興国高配当株式:全7商品のコスト・リターン・NISA適性を徹底比較

こんにちは、けんぶん(kenbunlife.jp)です。今回は、投資ポートフォリオを考える上でしばしば候補に挙がる「世界公益株式」と「新興国高配当株式」について、徹底的に掘り下げた調査結果を共有します。

この調査のきっかけは、私自身のポートフォリオ見直しにあります。当初、私は「公益株は米国のXLUで十分ではないか?」「新興国高配当は信託報酬が高すぎて選択肢にならない」という仮説を持っていました。この仮説を検証し、よりシンプルで合理的なポートフォリオを組むため、具体的な金融商品を対象に詳細な比較分析を行いました。

この記事の目的は、単なる「要約」ではありません。調査過程で得られた全ての有用な情報を、一切省略することなく「完全な形で共有」することです。各商品のコスト構造、パフォーマンス、NISAでの活用法、そして投資家タイプごとのおすすめまで、読者の皆様が具体的な投資判断を下せるレベルの情報を提供します。

本記事では、以下の7つの代表的なETF・投資信託を多角的に比較分析していきます。

【世界公益株式ゾーン】

  1. iシェアーズ グローバル公益事業 ETF (JXI)
  2. iTrustインカム株式(為替ヘッジなし)
  3. ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド

【新興国高配当株式ゾーン】

  1. SBIネクスト・フロンティア高配当株式ファンド
  2. ピクテ新興国インカム株式ファンド
  3. iシェアーズ・コア MSCI 新興国株 ETF (1658)
  4. NEXT FUNDS 新興国株式・MSCIエマージング・マーケット (2520)

それでは、詳細な分析に入っていきましょう。

第1部:世界公益株式ファンドの徹底解剖 – 安定か、コストか、インカムか

まず、世界中の電力・ガス・水道といった生活に不可欠なサービスを提供する「公益企業」に投資する世界公益株式ファンドから見ていきます。景気変動の影響を受けにくく、安定した配当が期待できるため「ディフェンシブ銘柄」として知られています。しかし、一口に世界公益株式といっても、選択する商品によってコストや運用方針は大きく異なります。

1-1. 比較対象3商品の詳細データ比較

ここでは、代表的な3つの商品を「基本情報」「コスト」「規模」「NISA対応」の観点から詳細に比較します。数値は調査時点のものであり、最新の情報は各運用会社のウェブサイトでご確認ください。

表1:世界公益株式ファンド 詳細データ比較
項目 iシェアーズ グローバル公益事業 ETF (JXI) iTrustインカム株式(為替ヘッジなし) ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(1年決算型)
種別 米国上場ETF 国内公募投資信託 国内公募投資信託
運用スタイル パッシブ(インデックス連動) アクティブ アクティブ
ベンチマーク S&P Global 1200 Utilities Index なし(先進国公益株が中心) なし(高配当公益株が中心)
総経費率/実質コスト 0.39% (総経費率) 約0.99% (実質信託報酬) 約1.8% (実質コスト)
信託報酬 (税込) N/A (ETFのため) 0.99% 1.826% (うち運用管理費用1.705%)
販売手数料 なし (証券会社手数料のみ) なし (ノーロード) 最大3.3% (販売会社による)
信託財産留保額 なし なし 0.3%
純資産総額 (AUM) 2.35億USD (2025/10/31時点) 非公開 (要確認) 約9,700億円
分配頻度 年2回 年1回 年1回 (他に毎月分配型あり)
NISA対応 成長投資枠 (証券会社による) 成長投資枠 成長投資枠

1-2. 各商品の特性と推奨される投資家タイプ

データだけでは見えにくい、各商品の「個性」を掘り下げます。

  • iシェアーズ グローバル公益事業 ETF (JXI): コスト最優先のインデックス派向け
    メリット: 0.39%という圧倒的な低コストが最大の魅力です。世界の公益株にまるごと分散投資したい場合に最もシンプルな選択肢となります。
    デメリット: 米国上場ETFであるため、購入にはドルが必要です。また、配当金には米国で10%の源泉徴収税がかかり、NISA口座内ではこの税金を取り戻す「外国税額控除」が使えません。配当を重視する投資家にとっては実質的な利回り低下につながる可能性があります。
    推奨ユースケース: 為替リスクを許容し、とにかく低コストでグローバルな公益セクターへのエクスポージャーを得たい投資家。長期的な資産形成のコアとして適しています。
  • iTrustインカム株式(為替ヘッジなし): NISAで手軽に始めたいアクティブ派向け
    メリット: 日本円で直接購入でき、多くのネット証券で販売手数料無料(ノーロード)です。NISAの成長投資枠で手軽に始められる点が強み。アクティブ運用でありながら、信託報酬は1%以下に抑えられており、同カテゴリ内では比較的良心的です。
    デメリット: JXIと比較するとコストは約0.6%高く、長期ではこの差がリターンに影響します。アクティブ運用がインデックスを上回る成果を上げ続けられるかは未知数です。
    推奨ユースケース: NISA口座を活用し、円建てで手軽に先進国の公益株に投資したい方。プロによる銘柄選別に期待し、インデックス以上のリターンを狙いたい投資家の中核(コア)部分の候補となり得ます。
  • ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド: 分配金重視のインカム投資家向け
    メリット: 約9,700億円という巨大な純資産総額がもたらす安定感と、長年の運用実績が魅力です。高い分配金を安定的に受け取りたいというニーズに特化しています。
    デメリット: 実質コスト約1.8%という高さは、長期的な資産形成において大きな足かせとなります。販売手数料もかかる場合があり、トータルコストは非常に重くなります。
    推奨ユースケース: 資産形成期よりも、資産活用期(リタイア後など)にある投資家が、ポートフォリオの一部(サテライト)で安定的なインカム収入を得る目的で利用するのが現実的です。コア資産としての長期積立には不向きと言えるでしょう。

1-3. 著者の考察:なぜ当初「XLUで十分」と考えたのか

調査の動機として述べた通り、私は当初「米国の公益セクターETFであるXLUで十分ではないか」と考えていました。その理由は、JXIの構成銘柄を見ると米国企業が約65%を占めており、値動きがS&P500に大きく影響されるためです。それならば、より低コストで流動性も高いXLUに集中し、米国以外のリスクはゴールドなどでヘッジする方がシンプルだと考えました。実際、過去のリターンを比較してもXLUの方が優位な期間が多く、この考えは今回の調査を経ても大きくは変わりませんでした。グローバル分散を謳いながらも実質的に米国市場への依存度が高い点は、JXIを選ぶ上で認識しておくべき重要なポイントです。

第2部:新興国高配当株式ファンドの真実 – ハイリスク・ハイリターンの実態

次に、高い経済成長とそれに伴う高配当が期待される「新興国高配当株式」に投資する商品群です。大きなリターンが狙える一方で、政治・経済の不安定さや為替変動リスクも高く、まさにハイリスク・ハイリターンの世界です。ここでは、アクティブファンド2本と、比較対象として新興国市場全体に投資するインデックスETF2本を取り上げます。

2-1. 比較対象4商品の詳細データ比較

表2:新興国株式ファンド 詳細データ比較
項目 SBIネクスト・フロンティア高配当株式F ピクテ新興国インカム株式F (1年決算型) iシェアーズ・コア MSCI 新興国株 ETF (1658) NEXT FUNDS 新興国株式 (2520)
種別 国内公募投資信託 国内公募投資信託 国内上場ETF 国内上場ETF
運用スタイル アクティブ アクティブ パッシブ パッシブ
投資対象 新興国・オセアニアの高配当株 新興国の高配当株 MSCIエマージング・マーケット指数 MSCIエマージング・マーケット指数
信託報酬 (税込) 0.099% 1.9382% 0.253% 0.209%
実質コスト 未公開 (設定後間もないため) 約1.27% (目論見書より低い実績) N/A N/A
販売手数料 なし (ノーロード) 最大3.3% なし (証券会社手数料のみ) なし (証券会社手数料のみ)
信託財産留保額 なし 0.3% なし なし
純資産総額 (AUM) 約47億円 約74億円 約207.8億円 (2025/10/31時点) 約37億円
設定日 2025年6月 2008年 2012年 2020年
NISA対応 成長投資枠 (見込み) 成長投資枠 成長投資枠 成長投資枠

2-2. 各商品の特性と投資戦略

  • SBIネクスト・フロンティア高配当株式ファンド: 超低コストのアクティブという異端児
    メリット: 信託報酬0.099%という、インデックスファンドをも下回る驚異的な低コストでアクティブ運用に投資できるのが最大の特徴です。「コストはインデックス並み、運用はアクティブ」というコンセプトは非常に魅力的です。
    デメリット: 設定が2025年6月と非常に新しく、運用実績がありません。純資産総額もまだ小さく、長期的な安定運用が可能か、今後を見守る必要があります。
    推奨ユースケース: 新興国高配当株に興味はあるがコストは抑えたい、という投資家が「お試し枠」として少額から始めるのに適しています。将来的に実績が伴えば、ポートフォリオのサテライトとして面白い存在になる可能性があります。
  • ピクテ新興国インカム株式ファンド: 実績重視のアクティブ派の選択肢
    メリット: 長年の運用実績があり、特に下落局面での強さ(ディフェンシブ性)が評価されています。多くの投資メディアで「おすすめ新興国株アクティブ」として紹介されるなど、知名度と信頼性は高いです。
    デメリット: トータルコストが非常に重い点が最大のネックです。信託報酬に加えて販売手数料や信託財産留保額がかかり、長期保有のコスト負担は相当なものになります。
    推奨ユースケース: 「コストを払ってでもプロの銘柄選定とリスク管理に任せたい」と考える投資家が、ポートフォリオのサテライトとして活用する商品です。コア資産にはなり得ません。
  • iシェアーズ・コア MSCI 新興国株 ETF (1658) & NEXT FUNDS 新興国株式 (2520): 新興国投資の王道インデックス
    メリット: これらは「高配当」に特化せず、新興国市場全体に低コストで分散投資するインデックスファンドです。1658は純資産が多く流動性が高い、2520は信託報酬が最安水準という特徴があります。新興国投資のコア(中核)として最適です。
    デメリット: 市場全体に連動するため、高配当株だけが上昇するような局面ではアクティブファンドに劣後する可能性があります。
    推奨ユースケース: まずは新興国市場全体を低コストのインデックスで押さえ、その上でSBIやピクテのようなアクティブファンドをサテライトとして少量加える、という「コア・サテライト戦略」の土台として活用するのが最も合理的です。

2-3. 著者の考察:なぜ「私は選ばない」と判断したのか

調査動機で述べた通り、私は新興国高配当株式をポートフォリオに組み入れない結論に至りました。最大の理由は、やはり「コスト」です。特にピクテの商品は、長期で複利効果を狙う上でコスト負担が重すぎると判断しました。一方で、SBIのファンドは低コストで魅力的ですが、新しく規模が小さいため、長期保有の対象として信頼を置くには時期尚早だと感じています。新興国市場の成長性は魅力的ですが、そのリスクプレミアムは、低コストの新興国インデックスファンドで享受し、さらなる上乗せは他のアセットクラス(例えばゴールド)で狙う方が、私にとってはシンプルで管理しやすいポートフォリオになると考えています。

第3部:NISAを最大限に活用するための戦略的視点

これらの商品を新NISAで活用する際には、いくつかの重要な注意点があります。制度の特性を理解し、最適な商品選択を行うためのポイントを解説します。

3-1. 主戦場は「成長投資枠」

今回取り上げた7つの商品は、その特性上、実質的にすべて新NISAの「成長投資枠」(年間240万円)の対象となります。ETFは制度上つみたて投資枠の対象外であり、今回のアクティブファンドも、コストや分配方針の観点からつみたて投資枠の要件を満たしていません。したがって、これらの商品をNISAで運用する場合は、成長投資枠の範囲内で検討することになります。

3-2. 【重要】高配当戦略とNISAの落とし穴:外国税額控除

NISA口座の最大のメリットは、日本国内での配当金や譲渡益にかかる約20%の税金が非課税になることです。しかし、ここに一つ大きな落とし穴があります。

  • 米国ETF(JXIなど)の場合: 配当金に対して、まず米国で10%の源泉税が課税されます。通常の課税口座であれば、この10%分を確定申告で「外国税額控除」として日本の所得税から差し引くことができます。しかし、NISA口座内ではこの外国税額控除が適用できません。 つまり、米国で課税された10%はそのままコストとなり、取り戻すことができないのです。
  • 日本籍の投資信託(ピクテ、SBIなど)の場合: これらは日本の法律に基づいて設立されたファンドです。ファンド内で外国株の配当を受け取る際には現地で課税されますが、投資家が受け取る分配金に対する日本国内の税金はNISAによって非課税となります。このため、外国税額控除の問題は発生せず、非課税メリットを最大限に享受できます。

ポイント: NISAで配当・分配金を重視する戦略を取る場合、外国税額控除が使えない米国ETFよりも、日本籍の投資信託の方が税務上有利になるケースがあることを覚えておく必要があります。

3-3. ポートフォリオ構築例:コア・サテライト戦略の実践

調査結果を踏まえると、コストとリスクのバランスを取るためには「コア・サテライト戦略」が有効です。ポートフォリオの中心(コア)を低コストのインデックスファンドで固め、周辺(サテライト)に特色のあるアクティブファンドなどを配置する考え方です。

  1. コア部分の構築 (ポートフォリオの70-90%)

    低コストで広範な分散が効いたインデックスファンドを中心に据える。
    世界株式: 全世界株式インデックス (オルカンなど)
    世界公益株式: JXI (コスト重視) or 低コストな国内投信
    新興国株式: 1658 or 2520 (コスト最優先)

  2. サテライト部分の追加 (ポートフォリオの10-30%)

    特定のテーマやリターン向上を狙う商品を少量加える。
    世界公益(アクティブ): iTrustインカム株式 (NISAでの使いやすさ)
    世界公益(インカム): ピクテ・グローバル・インカム (分配金目的)
    新興国高配当(低コストアクティブ): SBIネクスト・フロンティア (将来性期待)
    新興国高配当(実績アクティブ): ピクテ新興国インカム (プロの運用期待)

  3. NISA枠の配分

    成長投資枠をどの商品に割り当てるか戦略的に決定する。
    案1: コア部分をNISAで固め、非課税メリットを最大化。
    案2: サテライト部分のアクティブファンドをNISAに入れ、大きなリターンを非課税で狙う。
    注意: JXIをNISAに入れる場合は外国税額控除のデメリットを許容する必要がある。

結論

今回の徹底調査を通じて、当初の私の仮説「公益株はXLUで十分、新興国高配当はコスト高で不要」は、データによってある程度裏付けられました。特に長期的な資産形成においては、コストがいかに重要であるかを再認識しました。JXIは低コストですが米国比率の高さと税務上の不利があり、ピクテに代表される高コストアクティブファンドは、インカム目的のサテライト以外での活用は難しいという結論です。

一方で、新たな発見もありました。SBIネクスト・フロンティアのような「超低コスト・アクティブファンド」の登場は、今後の投資の常識を変えるかもしれません。今はまだ実績がありませんが、このような商品が育てば、インデックス一辺倒ではない新たな選択肢が生まれる可能性があります。また、ピクテのファンドが莫大な資金を集めている事実は、市場にはコスト以上に「安定した分配金」を求める強いニーズがあることを示しており、投資家の多様性を感じさせられました。

今後の課題としては、SBIのファンドが長期的にどのようなパフォーマンスを示すのかを注視していく必要があります。また、「新興国株のリスクをゴールドで補う」という私の考えが、具体的にどの程度の有効性を持つのか、バックテストなどを含めてさらに深掘りしてみたいと考えています。

この記事が、皆様のポートフォリオ構築における一つの詳細な羅針盤となれば幸いです。最終的な投資判断は、ご自身の投資目標、リスク許容度、そして価値観に基づいて下されるべきものです。本稿が、そのための「完全な情報」を提供できたことを願っています。

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